捨てられた犬や猫の保護、里親探しなどの活動を続ける「特定非営利活動法人群馬わんにゃんネットワーク」(飯田有紀子理事長)と高崎市が5月に開いた動物愛護フォーラム『いのち』で、理事の山田由紀子さんが「高崎市における動物愛護の現状」と題してミニ講演をしました。その中でひときわ印象深かったのが、「すみれ」という犬のお話です。「このフォーラムのことを、いろんな場で広めてもらいたい」という主催者からの声もあったので、その「すみれ」のお話を書き留めておきます。
【以下は、山田さんの講演】
◎「命をあきらめない」勇気、元気、笑顔
高崎市動物愛護センターに収容されていた「すみれ」は、今年3月初旬に新しい飼い主さんに迎えられました。しかしその後、そのお宅から逃げ出してしまいました。私たちに「迷子になった」という知らせが届いたのは譲渡した日からわずか1カ月。そして数日後「発見された」という連絡が入りました。でも、私たちは喜ぶどころか、すみれの姿に、我が目を疑いました。左手と左足は切断され、尻尾もかなり負傷していたからです。
◎事故で大けが
線路内で発見されたとのことで、電車にはねられた事故と判断されました。第一発見者が警察に連絡して、警察官によって保護されました。
しかし、その日は土曜日。保健所との連絡が取れず、そのままの状態で応急的な措置もされないまま、拾得物扱いに。「遺失物」として、丸2日以上をおそろしいほどの苦しい痛みに耐え、不安と恐怖におびえながら、長い2日間を耐えしのんだのです。
すみれは、迷子札もマイクロチップもつけていました。しかしこの確認をしてもらえないまま、夜は誰もいない真っ暗な場所で、襲いかかる痛みに懸命に耐えていました。
◎「生きよう」
月曜日になってやっと保健所の職員と連絡が取れ、すみれは飼い主さんと再会することができました。しかし、飼い主さんが下した判断は「安楽死」でした……。
私たちは、もちろん「安楽死などさせるべきではない」と訴えました。それは、すみれを見れば分かります。彼女は「生きよう」と丸2日間も懸命に死の恐怖と闘っていたのですから。
すみれは、私たちの団体の手元に戻り、すぐに救命のための手術が行われました。片方の手と足、そして尻尾は完全に失われました。でも、かけがえのない命は無事に保たれました。

命ある限り、最後まで責任を持って見つめてください。それが動物愛護です。負傷したからとか、介護が大変だからとか、そんな人間の身勝手な理由で、命をあきらめないでください。
◎車いすで「走れた」
すみれは2度、人から見捨てられました。それにもかかわらず、私たちを威嚇することもなく、うなることもなく、むしろ体を寄せてきてくれます。この精神性の高さを、私たち人間は学ぶべきだと思います。
すみれの事を知った大勢の方々から、応援メッセージ・お見舞い・ご寄付をいただきました。力強い支援のお陰で、彼女の車いすをつくることができました。今、再び元気に走り回っています。そして、やっと明るい笑顔を取り戻しました。


◎一番の願いは
あきらめたら、すべては終ります。すみれが私たちの心を動かし、元気な姿を取り戻したのは、私たちがすみれに心を動かされたからです。
「けっして生きることをあきらめない」、その姿に私たちは勇気をもらい、元気をもらい、そして生かされています。
私たちの一番の願いは、1日も早く「命が物として扱われることのない世の中」になることです。すみれも心からそう願っていることでしょう。
今後も、すみれの応援をよろしくお願いいたします。